連載企画「たかさんの独り言じゃけ」Vol.2
なかにし礼さんの戦前の満州を舞台とする歴史小説「赤い月」。関東軍将校肝入りで牡丹江に渡り、財をなし、栄耀栄華を極めた家族が戦争末期、ソ連軍の侵入から命懸けの逃避行へ。
加害者から一転、被害者へ変わっていく戦争が生む悲劇を描いた物語だ。この「赤い月」の冒頭は、関東軍諜報局の氷室のロシア人の恋人エレナがソ連のスパイであることが発覚し、氷室自らエレナを斬首する場面から始まる。
そのエレナと氷室がエレナの村の自宅で初めて会ったとき、エレナが氷室の帰る車に投げ入れたのがマトリューシカというロシアの民族人形だった。
ソ連軍侵入後、満州各地を転々とする氷室はそのマトリューシカを最後まで肌身離さず持っていたことが印象的だった。侵略者の一翼を担い、恋人を斬首せざるをえなかったことへの後悔の念と、寂寥感が人形に投影されているようだった。
マロリューシカとは人形のなかに人形が入っているかわいらしいもので、10体ほど入っている人形の最後のものは小指ほどの大きさになる。
一時、帝政ロシアの支配となったことがある大連やハルピンなどの中国東北地方の都市のみやげ屋でも売っていた。