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連載企画「たかさんの独り言じゃけ」Vol.9 2020年5月26日

 中国史で人気なのは紀元前220年頃からの秦の始皇帝とそれに続く、項羽と劉邦の物語、そしてそれから400年後の三国志だ。その間の漢という時代の歴史はあまり知らないので、いいものを探していたら、小説ではあるが北方謙三氏の「史記武帝紀」にいき当たった。

 この小説は紀元前1世紀前後の55年間、皇帝に君臨した漢の武帝劉徹の時代を描く。北方氏は史実に忠実に描きたいという思いでこの小説を書いたという。物語は漢とその北にいる遊牧民族の匈奴とのたたかいを中心に描く歴史ロマンだ。特に後半、匈奴の俘虜になるが、匈奴に屈服しないがゆえに、バイカル湖の北の極寒の地に流刑となった漢の使者・蘇武、匈奴に破れた漢の降将、降将なるがゆえに武帝に家族を族滅(皆殺し)された李陵、そして望郷の思いをもつ蘇武と李陵二人の友情。李陵を擁護したがゆえに、腐刑(去勢)されてもなお、歴史の真実を描き続けようとする「史記」の著者、司馬遷。苦難の中、生き抜く3人と不老不死を夢見て、権力をほしいままにする皇帝・武帝とを対比して描かれていく。

全7巻、歴史を皇帝の歴史とだけ描くのではなく、それへの批判の目をきちんととらえている。武帝劉徹の独裁権力に側近は物言わず忖度するばかりだ。一方、誠実に生きるものには過酷な犠牲を強いる。これは2000年前のことではなく、今日の日本の権力構造とびっくりするほど似ているなと思いながら読み進めた。